Top >  05.学術論文 >  生涯美術論事始(大学美術教育学会)

生涯美術論事始(大学美術教育学会)

生涯美術論事始
Starting to Study the Theory of Art Education on Lifelong Learning
高岡第一高等学校 松尾 豊



I.はじめに(現状・動機・目的)

 三重県津市で開催の大学美術教育学会で研究発表を行った1991(H3)年には、筆者は「生涯美術」なる言葉を公的に造語していたが(注1)、すでに体育やスポーツの分野では「生涯スポーツ」等の呼称が定着していた。筆者が造語した当初は、黒部市宮野運動公園で開催された第4回黒部野外彫刻展(90年10月)の取り組みを通して、野外彫刻と地域文化や学校美術と生涯学習の統合として、個人的に「生涯美術」用語を漠然と使用していたに過ぎなかった。

 私的「生涯美術」用語使用の7年後、97年9月上越教育大学で「生涯美術研究」と第して研究発表を行った(注2)。内容的には、それまでの野外彫刻研究から辿り着いた授業実践上の一到達点としての生涯美術論構築のための構想であった。当時は、概要としては生涯美術論の構築に向けて、アートシーンのある場所に着目した学校美術研究と校外美術研究の二本の柱を立てていた。発表では、特に後者の校外美術研究の重要性を指摘し、4領域を考えていた。1)「パブリックアート」研究、2)アートマネジメント研究、3)地域文化研究、4)文化施設研究の4点を挙げていたが、2000(H12)年6月の今日、その必要性が一層増したと実感せざるを得ない現状である。それは、「パブリックアート」研究の広がりや美術館学(注3)、文化政策論(注4)、アートマネジメント論(注5)等の登場による学問的体系化の顕在でも理解されよう。その背景には、日本経済の高度化と経済の文化志向や余暇時間の増長などの要因の他、人間自身の納得した生き方への模索を提供するはずの生涯学習社会の出現があるとも言えよう。とりわけ、校外美術研究は「ゼロ免課程」と言われる大学の「生涯学習課程」や「生涯学習コース」内の芸術・美術系の学生達に教授すべき急務の研究領域であり、併せて「教員養成課程」や「学校教育課程」内の学生達にもその成果を還元して行くことで、学校美術の再構築を展望させる極めて重要な研究課題を内包していることは、美術教育関係者なら誰しもが認識せずにはいられないところであろう。

 本稿は、上記の経過や現状を踏まえた生涯美術論構築のための具体化の必要性を動機とするが、目的は以下の4点にある。その第一は、生涯教育理念と現代社会の分析。第二に、高岡第一高校生の意識と生涯美術論への切口の開示。更に第三には、野外彫刻研究と高校美術研究の教訓的提示。そして最後に、大学美術研究者への提言を目的とする。

II.生涯教育理念と現代社会の私的分析へつづく



I.はじめに(現状・動機・目的)
II.生涯教育理念と現代社会の私的分析
III.高岡第一高校生の意識と生涯美術論への切口
IV.野外彫刻研究と高校美術研究から学ぶこと
V.おわりに(大学美術研究者への提言)
<注及び引用文献>

 <  前の記事 富山を豊かにする野外彫刻展のあり方(毎日新聞富山版)  |  トップページ  |  次の記事 「彫刻のある街づくり」にみる現状と諸問題(大学美術教育学会)  >