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富山を豊かにする野外彫刻展のあり方(毎日新聞富山版)

富山を豊かにする野外彫刻展のあり方
毎日新聞社:毎日新聞郷土提言賞
平成元年度優秀賞
  1989年9月
高岡第一高等学校 松尾 豊


 富山県は、全国屈指の銅器とアルミ産業を擁し、県内にはなくてはならぬ地場産業群を形成しています。また地理的にも立山連峰や富山湾沿岸の美しさ、魚介類の美味しさも全国的に有名であります。さらに、木彫工芸の街井波や銅器の街高岡には、各々の職人だけでなく彫刻家を生み出す土壌があり、地方の彫刻界でもその質と量において異例といわれています。
 私はこんな風土と土壌の富山県のふるさとづくりを考えたときに、次のことを提言したいと思います。それは、富山県と県内自治体主催の野外彫刻展の開催です。それも、会場を年度毎に替えるエンナーレ形式であり、隔年で銅器とアルミに鋳造することを前提とした地場産業奨励型の野外彫刻展です。例えば、高岡市を第一回の開催地とすれば、入選作品は全品ブロンズ鋳造し、第二回目の開催地ではアルミで鋳造するというように、一年おきに銅器とアルミで型取り屋外展示するということです。当然、入賞作品は主催者が買い上げ、開催地の景観を考えた適所に配置するような展覧会を希望します。
 富山県内の野外彫刻展企画をより具体的に記すと、次のようになります。前記の他に、全国公募、公開審査、開催地主催の彫刻実習や彫刻講座の併設、野外彫刻討論会等、富山県民に開かれた県民参加型のものであり、県民のための生涯学習に寄与するものでありたい。また、単なる野外彫刻展で終わらせないために、彫刻設置を街づくりに組み込んだ、計画性と発展性のある"彫刻のある街づくり"と連動する内容の企画であるべきことは、当然です。
 ところで、こんな野外彫刻展が長期的計画的に実施されたら、その他にも様々な波及効果が表われ、都市景観や環境デザイン上の効果以上のものも創造される可能性が多分に出現します。その様々な面で予想される波及効果について、以下に進言したいと思います。
 その第一は、野外彫刻展の実施により、銅器やアルミ関係の地場産業の隆盛です。さらなる全国的知名度のアップの他に、割安で全国の彫刻家達の原型鋳造を可能とします。そのことで、職人の鋳造技術の向上と関連業者や地元作家達への励みも生まれてくるはずでしょう。
 第二の予想される波及効果ですが、学校教育面での鑑賞授業の前進です。地元に野外彫刻が計画的に設置されていれば、美術の時間に生徒を公共空間や街角に引率し、直接目で彫刻とそれを取りまく空間のすばらしさを臨場感をもって鑑賞させることができます。また、教師がスライド撮影し、学校内の授業で彫刻や街づくりに対する認識を深める鑑賞形態も考えられます。さらに、心ある人々の強力のもとに野外彫刻出版物の刊行が可能なら、図書館での野外彫刻関連授業を他の都道府県や世界にある野外彫刻のあり方の中で、学習することができるはずです。
 第三に予想される波及効果は、社会教育面、つまり生涯学習活動面での活性化です。教育とは、人間が一生涯学び続ける中で、死ぬ直前まで個々人が輝き続けていこうとする意欲を引き出す営みと定義されるなら、自治体が、学校教育以上に社会教育機関を充実させ、社会人を含めた生涯学習活動の活性化を図るべきことは、明白なことです。具体的には彫刻美術館の建設や既存美術館内での彫刻実習の積極的奨励、彫刻や美術関係一般の講座学習の充実などを、市民の声を集約した形で自治体の方向づけで活発にして行くことです。当然、公民館等でのサークル活動も同様です。そうすることで市民、県民の生きがい作りの援助と同時に、美術館、博物館や公民館等がより身近になってくるはずです。そのためには、市民、県民のニーズを大切にすることと、ニーズをフィードバックさせる体制作りと効果的な宣伝が重要と思われます。
 私の最後に提言したい予想波及効果は、マスコミによるメディアミックス的取組の飛躍です。野外彫刻展実施により、テレビやラジオでの野外彫刻探訪的番組が可能になり、新聞による野外彫刻紹介も活発化するはずです。さらに、それらを整理する形でマスコミによる野外彫刻本の出版も予想されます。経済が文化を志向する時代では自明のことでしょう。県民を視覚や聴覚により、家庭内にいながらにして教育する効果を、メディアミックスは最大限に発揮します。それが、旅行や行楽の目的にされたり、文化や美術や街づくりへの興味の拡大になるのも当然でしょう。つまり、マスコミの連動したメディアミックス的取組が富山県民の生きがい作りや生涯学習への意欲的参加を促進させ、生活の楽しさや潤いの創造へとかきたてるはずです。
 以上、富山県への野外彫刻展を通じての様々な提言ですが、要するに、単なる地場産業発展への寄与だけでなく、富山県民の文化や街づくり、自らの生きがいづくり等へも貢献するはずであるが故に、私は最初に述べたような野外彫刻展開催の提言をします。


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