地域再生と芸術支援活動の狭間で考えたこと――第三回大地の芸術祭からの報告 松尾 豊
八月十二日からの五日間、三回目の大地の芸術祭を見てきた。今回の芸術祭の特徴は、里山にこれまで以上に徹底的にこだわった現代アートの発信、里山・空家・廃校等の地域資源を活用した芸術による産業育成、世界との協働や日本のアートプロジェクトとの連動等が志向された点であろう。その具体例として、作品を妻有地区全体に約三百三十点も散在させ里山や棚田も含めた壮大な美術館に見立てたこと、地域資源再活用の空家プロジェクトとして
概要や特徴を裏付ける芸術祭の作品や制作活動は、やはり関わった人間から現地へ行って見ることで話を聞き出さないと判らないことは当然である。とにかく廃屋の古民家再生や廃校の分校や小学校の再活用で交流する人間に笑顔が溢れ、古い佇まいが人間の息吹で生き返り当時の人々の生活や記憶を蘇生させる以上に、これからの新しい人間の生活を提案しているようで感動的だった。都市化され、合理化や利便性のみを追求してきた人間の経済的効率性最優先に警鐘を鳴らし、忘れていたというより認識していながらも自覚的に失ってきた人間の営みの愚かさへの自問的感動でもあったように思えた。
さて、優秀作品の報告だが、古郡弘の〈胞衣 みしゃぐち〉と日本大学芸術学部彫刻コース有志生による〈脱皮する家〉が圧巻だった。しかしながら、芸術支援活動の面白さを堪能させたのは、八人の陶芸家の作品とその作品を展示する《うぶすなの家》と願入地区近辺のお母さん達による「女しゅうの会」の活動である。これまでの都市部学生サポーターの支援とは一味違う雰囲気があった。国宝の縄文火焔土器に因み、新しい焼き物文化の中心として「妻有焼」を創造・発信してゆこうというプロジェクトである。古民家再生の権威と有名陶芸家八人と地域の人々による協働で、煙突や釜や器まで陶芸作品化し、レストランでは地元の料理が振舞われていた。当然のごとくこの家の空間と一体化した作品が深呼吸をしていた。その他に印象に残った作品として行武治美の〈再構築〉や本県在住の岡部俊彦の〈ワールドエナジーシステム〉等も挙げられる。全体的には、野麦峠のような壮大な山間地を現代アートのオリエンテーリングで夏の汗と涼を体感した取材であった。
最後に付け加えておかなければならない点は、サポーター「こへび隊」の減少と「京都大学で社会学を学び関西から来た」学生に見られる多様化、「おおへび隊」等の企業人や学生外のサポーターの増加、「新潟サポーターズ会議」なる県都を中心とする支援組織の創設等など、様々な変容の中でも三回目の芸術祭は鑑賞者も最多を更新した上に地元住民の協働者が増えたことであろう。更に重要な視点は、中山間地のアートによる世界的理想郷創造運動が、美術史におけるアートそのものの問い直し、美術教育における鑑賞やパブリックアートや地域連携の重要性、コミュニケーションと協働による人間性の回復、環境と芸術文化政策への提言に加え、それらを総合した形の芸術支援学構築を可能にしたことだ。そのためにも定着するまでは行政が支援を続けるべきと思わずにはいられなかった。 (パブリックアート研究家・日本アートマネジメント学会会員・高岡第一高校美術教諭)
古郡弘〈胞衣 みしゃぐち〉
岡部俊彦〈ワールドエナジーシステム〉
行武浩美〈再構築〉
〈再構築〉
日大彫刻コース有志生〈脱皮する家〉
〈脱皮する家〉
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