「彫刻のある街づくり」にみる現状と諸問題
The Present Condition and Problems on "Town Planning with Sculptures"
高岡第一高等学校 松尾 豊
I.はじめに(現状・定義・目的)
1989(S64)年11月に、筆者は上記標題と同一テーマで第28回大学美術教育学会において研究発表を行った(注1)。今(96年7月)それから7年近くが過ぎようとしているが、昭和の終焉89年は「バブル経済の隆盛期」と言われ、その頂点に近づく上昇期にあった。経済企画庁は、91(H3)年4月に頂点に達し93年10月頃に「はじけた」とみている。その頂点の年の91年10月には、建築家の三沢浩氏が横浜美術館で「彫刻のある街づくりで彫刻設置事業をしている自治体は、80を越えている」旨の講演を行った(注2)。又、95年10月同氏は「約120の自治体に増えている」旨の発言をしている(注3)。
三沢氏の発言は、バブルがはじけても「彫刻のある街づくり」を目指す自治体が一応の「成果」をあげ継続を志向する一方で、新事業として出発する市町村も増えてきたことを意味する。更に、89年以降は、筆者の野外彫刻研究とは別に、造園や都市計画等の研究者の間からも調査報告が提出され、近年は「パブリックアート」の呼称で野外彫刻に関する著書も出版されてきた(注4)。他方で、美術評論家や美術史家からのまとまった書物(写真ガイドブックは除外)は、皆無に近い現状である。
「彫刻のある街づくり」(以下「街づくり」に省略)は、これまで曖昧に語られてきたが、本稿では「自治体が、街づくりを自覚的に意識し、何らかの形で彫刻や立体造形を屋外又は野外空間に計画的に設置したり、収集・公開・展示する事業」と定義してみたい。本稿は、これまでの筆者の野外彫刻研究を踏まえ、阪神大震災の報告と愛知県碧南市民の評価の実態を加え、「街づくり」の96(H8)年3月末現在までの現状を整理し、問題点と課題を探ることを目的とする。
II.歴史的経過と地理的広がりへつづく
I.はじめに(現状・定義・目的)
II.歴史的経過と地理的広がり
III.「街づくり」の現状
IV.問題点と課題
V.評価と市民社会への有用性
VI.おわりに(パブリックアートとしての今後)
<注及び引用文献>