パブリックアート・地域文化研究、そしてア―トライティングの可能性
高岡第一高等学校
松尾 豊
アートライティング研究会、2006年
Ⅰ:研究及び実践の経過
高岡第一高校で美術教育の方法としてのアートライティングの本格的開始は、平成6(1994)年度からである。それ以前の美術教育の内容は、制作一辺倒で、そこに自分の取材した野外彫刻のスライドを少し生徒に見せていた程度であった。一方、同時進行の「パブリックアート」の調査研究で全国を駆け巡る内に、彫刻に限らずその地にある芸術や文化の状況を散見する中での地域文化継承の必然性及び美術教育における鑑賞の重要性への発見と強い思いを自覚した。
つまり、パブリックアート・地域文化研究と並行した授業還元の中で辿り着いた実践的思いが、生涯美術論構想を誕生させ、平成6年度からの以下の3点を帰結点とした。①普通高校芸術科「美術」の最終目標は、「生涯美術ファンの育成」にある。②3学期の授業は制作を止め鑑賞に切り替える。③作家や地域文化のライティングをする(当時は「批評を書く」と言っていた)である。その後も、生涯美術論構想に基づき、「フレンドパークのモニュメント」(平成7年度)、高岡銅器団地での校外学習による参加体験授業の追加(同11年度)等様々な改善を加えながら実践した。以下、平成17年度の「アートライティング」に関する提出資料下記12枚に基づき報告する。
Ⅱ:平成17年度(2005年4月~2006年3月)におけるアートライティングの実際
①「以下のアンケートに素直に答えなさい」
②「高岡現代彫刻オリエンテーリング」
③「『フレンドパークのモニュメント』に関する質問」
④「『野外彫刻と抽象彫刻』に関する質問」
⑤「地域文化と生涯美術(高岡銅器)」
⑥「VTR『日本の巨匠』を見て質問に答えよ」(蓮田修吾郎)・⑦「同『日本の巨匠』」(佐藤忠良)
⑧「井波彫刻と地域文化」(原稿用紙)
⑨「校外学習アンケート」
⑩「アンケートに正直に答えなさい」(以上①から⑩までは「美術Ⅰ」の1年生対象授業)
⑪・⑫「美の探訪と私の美意識」(原稿用紙2枚=2年生普通総合コース生「総合学習」の授業)
Ⅲ:アートライティングの可能性
聞きなれない「アートライティング」の授業をし出して12年目である。当初は、自分の構想の延長上に書くことがあった程度で評価を最大の理由とした。しかし、その継続の中で、「鑑賞も必要」「書くことも大事」という生徒の声を耳にした。今後の可能性として、①国語の表現能力の向上、②芸術学系への進学に有利という一般的理由以外に、③自分の制作への内省、④作家との気持ちの共有、⑤身近なアート空間への積極的関与、⑥コンセプトの重要な現代アートの制作過程や表現ではさらなる高い有効性を発揮、⑦言葉で表現することでのみ可能な造形芸術上の想像力や創造力の啓発、⑧表現と鑑賞のバランスある授業による「美術」の教科性の強化、⑨芸術支援学構築への寄与の9点程の可能性が現時点では考えられる。今後のより具体的で計画性のある研究が期待されるところである。